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「初動」の戦略とスキル 2022.11.24

1 前回の「交渉を嫌う当事者」で、初動は極めて重要で、そのための戦略とスキルが必要であると述べました。

今回は、基本的な戦略とスキルについて簡単な事例をあげて説明します。
それぞれ異なった戦略とスキルを使ってます。どのような交渉戦略を使ったか想像できますか?

事例1 犬を多頭飼育している家があり、犬の鳴き声がうるさく近隣に迷惑をかけていた。住民が飼い主に苦情を言っても、役所から連絡しても騒音は一向に止まなかった。

しかし、ある交渉戦略を使ったら問題が解決した。

事例2 犬の散歩中に、たまに公園で出会う加害者の犬に被害者と被害者の犬が咬まれてしまった。

加害者の犬は凶暴な大型犬、被害者の犬は小型犬、被害者は大怪我を負い、被害者の犬は死亡した。 
加害者は責任を認めようとしないし、被害者をどう喝している。
しかし、ある交渉戦略を使ったら問題が解決した。

事例3 動物病院、ペットホテル、トリミングサロン、ドッグスタジオで事故が起き、損害賠償の範囲や金額が問題となっていた。

双方が代理人弁護士を立てて交渉している。
しかし、ある交渉戦略を使ったら問題が解決した。

2 交渉戦略という以上どのような交渉にも通用する体系性と実践性が必要です。

もっとも、できるだけ広範囲で適用させようとすると行動指針として抽象的になり、実践性がなくなります。かといって、行動指針として実践性を持たせようとすると狭い範囲でしか通用しないものになります。
また、行動指針として、理論だけではなく、実践の場で実証され、実践に耐えられるものでなければなりません。
そこで、理論と実践のフィードバックの繰り返しで生み出された交渉戦略の体系が「フォーラムボックス」理論です。詳細は「法交渉心理学(連載)」で説明します。
以下、この理論に従って、上述の1から3の事例の交渉戦略について解説します。

事例1 信頼戦略

近隣住民や役所の交渉が失敗した理由は何でしょうか? それは、相手方が問題行動者であると決めつけ、近隣住民が迷惑をするとの理由で、犬の無駄泣きを止めさせるように要求したからです。
「フォーラムボックス」理論ではこのような交渉戦略を「対立戦略」と呼んでいます。意図的な対立関係の醸成を目的とする戦略です。
近隣住民は思いに任せて交渉してしまったので場違いな対立戦略の結果が生じてしまったのです。
上手くいかない戦略は変更しなければなりません。
全く反対の立場を採ったらどうなるでしょうか?
相手方を問題行動者と決めつけない、理由は相手方が困っていることの相談にのり、相手方の手助けをすること、一緒に犬の無駄鳴きを解決する方法を考えようという立場で交渉したらどうでしょうか?
これが「信頼戦略」です。
カウンセリングや家事調停のラポール(信頼関係)を基盤とし、相手方の立場に立ち、相手方を説得する戦略です。
法律や論理は対立関係を醸成する危険があるので法律用語も含めて慎重に使用の有無を検討します。
交渉の結果、相手方は体が弱いために犬を散歩に連れて行けなかったことが犬の無駄鳴きの理由であり、相手方も改善意志があることが分かったので、みんなで話しあって合意し、近隣住民が輪番制で相手方の犬を散歩させることにしたら、犬の無駄鳴きが治りました。相手方は自治会費を支払ってくるというオマケまでつきました。

事例2 対立戦略

相手方(加害者)は責任を認めようとせずに被害者をどう喝しています(どう喝は対立戦略ではありません。)。
相手方の交渉スタイルは多くの場合過去の成功体験から学習したものですが、このような相手方に対して初動として信頼戦略をとると失敗する危険があります。
どう喝や威嚇が威力を発揮する場合はあります。しかし、自分で自分の首を絞めるリスクがあり、交渉のプロに対しては通用しません。
どう喝や威嚇をする相手方に対しては、相手方の思い込みを正すために、相手方にどう喝が効いていないと思わせる交渉スキルを実践することが先決です。
そして、こちらは対立戦略をとることを検討しなければなりません。
対立戦略は自己の立場に立ち、論理(法律など)的説得をするものです。
法律を使った説得は訴訟や権利義務の視点を全面に出すことになるので結果として相手方を威嚇する場合があります。
対立戦略を採用するかどうかは、相手方の性格や事件の性質、勝訴可能性、交渉資源などを総合的に検討しなければなりません。
事例2の場合は、早期に対立戦略をとり、訴訟上の和解によって相手方に請求金額全額を支払わせることができました。過去の成功体験から過度に攻撃的な交渉をする者は防御に弱い傾向にあることをまたしても実感しました。

事例3 緊張戦略

ペット産業のトラブルの場合には請求者側(顧客)に弁護士が関与すると被請求者側にも弁護士が関与する場合が通常です。
弁護士だからといって交渉のプロとは限りませんが、幸にして双方が交渉のプロの場合には、紋切り型の権利義務があるかないかという書面交換だけではなく、紛争の拡大を予防し、依頼者のリスクとコストが最小限の交渉戦略を選択するはずです。
お互いに対立関係に入ることを回避し、信頼関係を築きながら、同時に論理(法律)の立場から、相手方の説得を試みる高度の戦略〜信頼関係に基づく双方の自制と均衡が崩れると対立関係を醸成し訴訟に至るという緊張関係に基づく戦略〜を採用できるはずです。これを緊張戦略と呼びます。
事例3の場合は、双方代理人が、緊張戦略を採用して、双方の認識に争いのある過去の事実関係や法律関係よりも、訴訟になった場合の将来の双方の利害得失に力点をおいた交渉をしたことによって、合意により解決しました。

3 信頼戦略、対立戦略、緊張戦略の一つの違いは、説得根拠の寄って立つところ(基盤)です。

信頼戦略=相手方の立場、対立戦略=自分の立場、緊張戦略=第三者(法律、権威)です。
また、信頼戦略→緊張戦略→対立戦略の順番で交渉をすることが原則です。
交渉戦略は理論と実践に基づく強力なツールであり、合理的な戦略的思考のない交渉はその場限りのものであり無謀としか言いようがありません。「初動」の場面から交渉戦略を検討しないと無謀だけではなく不毛の交渉となります。

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